AGAの基礎知識

AGAのメカニズムを理解しよう|男性ホルモンが作用する仕組みとは

AGAのメカニズムについては、以下の通り、日本皮膚科学会の『男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017』に書かれています。

しかし、見てわかる通り、素人には非常にわかりづらいです。

一般的に男性ホルモンは骨・筋肉の発達を促し,髭 胸毛などの毛を濃くする方向に働く.しかし,前頭 部や頭頂部などの男性ホルモン感受性毛包においては逆に軟毛化現象を引き起こす.男性ホルモン感受性毛包の毛乳頭細胞には男性ホルモン受容体が存在するが,髭や前頭部,頭頂部の毛乳頭細胞に運ばれたテストステロンはII型5α―還元酵素の働きにより,さらに活性が高いジヒドロテストステロン(DHT)に変換されて受容体に結合する.DHTの結合した男性ホルモン受容体は髭では細胞成長因子などを誘導し成長期が延長する.逆に前頭部や頭頂部の男性ホルモン感受性毛包においては,DHTの結合した男性ホルモン受容体はTGF-βやDKK1などを誘導し毛母細胞の増殖が抑制され成長期が短縮することが報告されている

出典:日本皮膚科学会『男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン2017』

そこで、AGAのメカニズムをより理解するために、板見智先生の著書『専門医が語る 毛髪科学最前線(集英社新書)』を参考に説明します。

AGAのメカニズムはヒゲが濃くなる仕組みと同じ

AGAとは、前頭部と頭頂部の毛が脱毛する病気です。

AGAはヒゲが濃くなるのと同じ仕組みで、ヘアサイクルが変化した結果生じます

ヘアサイクルが変化することで、ヒゲや胸毛などの体毛が濃くなったり、頭頂部の毛髪が抜けたりします。

ヘアサイクルが変化する仕組みを見ていきましょう。

ヘアサイクルとは

ヘアサイクルとは、髪の毛が通常2年〜6年のサイクルで生え変わることをいいます。

ヘアサイクルは、成長期退行期休止期の3つの期間から成り立ちます。

成長期:毛細血管から取り入れた栄養をもとに、毛球部で髪の毛が作られる。毛母細胞が細胞分裂をくり返し、作られた髪の毛を上部へ押しあげて成長する。

退行期:毛母細胞の分裂が急激に衰える。

休止期:細胞分裂が止まり、髪の毛の製造・成長が完全に止まる。

 

3つの期間の長さは、通常だと次の通りです。

成長期:2年〜6年

退行期:2週間

休止期:3ヶ月

AGAの人のヘアサイクルはどうなっているのか?

AGAの人は、通常と比べて、成長期の期間が短くなります。

  通常 AGA
成長期 2年〜6年 半年〜1年
退行期 2週間 2週間
休止期 3ヶ月 3ヶ月

このヘアサイクルにおける成長期が短くなることが薄毛の原因です。

では、どのようにヘアサイクルにおける成長期が短くなるのでしょうか?

ヘアサイクルの変化のカギは男性ホルモンにあり

AGAのメカニズムを理解するためのカギとなるのが、男性ホルモンです。

思春期になると、ヒゲや胸毛などが濃くなりますが、これは男性ホルモンの働きでヘアサイクルが変化した結果生じます。

ヘアサイクルに影響するのは男性ホルモンだけでなく、甲状腺ホルモンやビタミンD、グルココルチコイドなど、他の物質も影響します。

ただし、同じヘアサイクルに与えるものの中でも、男性ホルモンとそれ以外では明らかに違う点があります。

何が違うかというと、影響するターゲットの違いです。

男性ホルモン以外は毛母細胞に作用するのに対し、男性ホルモンだけは、毛乳頭細胞に作用します。

では、毛母細胞と毛乳頭細胞では何が違うのか?

それは、男性ホルモンレセプターがあるかないかの違いです。

毛母細胞には男性ホルモンレセプターがなく、毛乳頭細胞にはあります。

男性ホルモンは、男性ホルモンレセプターがある場所でしか作用しません。

要点まとめ
  • 髪の毛や体毛が濃くなるなどの毛の変化は、ヘアサイクルが変化して起こる。
  • ヘアサイクルに影響を与えるのは、男性ホルモンだけではなく、甲状腺ホルモンやビタミンD、グルココルチコイドなども影響する。
  • 甲状腺ホルモンやビタミンD、グルココルチコイドなどは毛母細胞をターゲットとするが、男性ホルモンだけは毛乳頭細胞をターゲットとする。

AGAの発生は毛乳頭細胞で起きている

AGAは、男性ホルモンが毛乳頭細胞をターゲットとすることで起きています。

AGAでは前頭部や頭頂部は脱毛するのに後頭部だけ脱毛しない理由

「毛乳頭細胞をターゲットとする」と言っても、すべての毛包の毛乳頭細胞に男性ホルモンレセプターがあるわけではありません。

頭部では前頭部、頭頂部、また髭や脇毛の毛乳頭細胞には男性ホルモンレセプターがありますが、後頭部の毛乳頭細胞にはありません。

つまり、後頭部の毛乳頭細胞には男性ホルモンレセプターがなく、男性ホルモンが作用しないため、後頭部の毛髪は脱毛しないのです。

前頭部や頭頂部の毛乳頭細胞には、男性ホルモンが働く条件が揃っている

男性ホルモンが働くためには、酵素、男性ホルモンレセプター、標的遺伝子の3つが必要です。

前頭部や頭頂部の毛乳頭細胞には、これら3つの条件がそろっています。

テストステロンがジヒドロテストステロンに変化する仕組み

男性ホルモンの中で代表的なものがテストステロンです。

テストステロンが血液の中を通って細胞の中に入ると、5αリダクターゼという酵素によって、ジヒドロテストステロン (DHT)に変化します。

このDHTが細胞内の男性ホルモンレセプター(受容体)と結合して、細胞の核内に入り、標的遺伝子のプロモーターに結合してタンパク質誘導を行い、生物学的な作用を起こします。

これだけ聞いても意味不明だと思いますので、順番に説明します。

テストステロンからDHTに変化すると何が変わるのか?

テストステロンがDHTに変化することで、男性ホルモンレセプターと10倍結合しやすくなることがわかっています。

DHTはそのままでは細胞の核内に入れず、男性ホルモンレセプターと結合しないと入れません。

 

細胞の核内に入るのと入らないので何が違うのでしょうか?

細胞の核内に入って初めて標的遺伝子のプロモーターと結合できるのです。

要点まとめ
  • テストステロンからDHTに変化することで、男性ホルモンレセプターと10倍結合しやすくなり、細胞の核内に入れるようになる。
  • 細胞の核内に入れると、標的遺伝子のプロモーターと結合できる。
  • 標的遺伝子のプロモーターと結合できると、タンパク質誘導を行い、生物学的な作用を起こす。
  • その結果、AGAが生じる。

結局なぜ前頭部や頭頂部の毛髪が脱毛するのか?

男性ホルモンでヒゲは濃くなるのに前頭部は薄くなる違いは何か?

AGAの人は、男性ホルモンがヒゲでは毛の成長を促進するのに対し、前頭部では成長を抑制するシグナルを出します。

試験管を使って、毛乳頭細胞と角化細胞がどうなるかを調べた実験の結果、次のことがわかっています。

(角化細胞とは、髪の毛の表面の細胞です)

髭の毛乳頭細胞では、男性ホルモンを加えることによって、角化細胞の増殖が促進された。

一方、AGAが生じる前頭部の毛乳頭細胞を使った実験では、角化細胞の増殖を抑制する結果が確認された。

これらの結果から、同じ男性ホルモンの影響でヒゲは濃くなるのに前頭部では脱毛する違いは、角化細胞の増殖が促進されるか抑制されるかの違いにあるとわかりました。

では、この違いの原因は何でしょうか?

男性ホルモンでヒゲは濃くなるのに前頭部は薄くなる理由

毛乳頭細胞を集めて遺伝子の変化を調べる実験で、次のことがわかりました。

AGAを起こす前頭部では、男性ホルモンが増えると毛乳頭細胞からTGF-β1という因子が出ます。

このTGF-β1が、角化細胞が増えるのを強力に抑制したり、あるいはアポトーシス(細胞の死)を起こさせます。

実際、TGF-β1をマウスに打つと、脱毛が起きます。

ヒゲでは、男性ホルモンが増えると毛乳頭細胞からIGF-1という成長因子が作られます。

このIGF-1が角化細胞を刺激して、髭の成長が促進されます。

要点まとめ

男性ホルモンでヒゲは濃くなるのに前頭部は薄くなる理由は、ヒゲではIGF-1、前頭部ではTGF-β1、という別の因子が作られるためです。

まとめ

このDHTが細胞内の男性ホルモンレセプター(受容体)と結合して、細胞の核内に入り、標的遺伝子のプロモーターに結合してタンパク質誘導を行い、生物学的な作用を起こします。

ここの説明がわかりにくかったので、再度確認しましょう。

 

  1. 男性ホルモンのテストステロンが5αリダクターゼと結合し、DHTに変化する
  2. DHTが男性ホルモンレセプターと結合し、毛乳頭細胞の核内に入る
  3. 標的遺伝子のプロモーターに結合する

 

さて、このあと何が起こるのでしたっけ?

④タンパク質誘導を行い、生物学的な作用を起こす

ここの「生物学的な作用」が不明確なままでした。

 

それには、角化細胞とTGF-β1が関係しているとわかりました。

④タンパク質誘導を行い、生物学的な作用を起こす

④TGF-β1という因子が作られ、TGF-β1が、角化細胞が増えるのを強力に抑制したり、あるいはアポトーシス(細胞の死)が起こる→脱毛が進行する

要点まとめ
  1. 男性ホルモンのテストステロンが5αリダクターゼという酵素と結合し、DHTに変化する
  2. DHTが男性ホルモンレセプターと結合し、毛乳頭細胞の核内に入る
  3. 標的遺伝子のプロモーターに結合する
  4. TGF-β1という因子が作られ、TGF-β1が、角化細胞が増えるのを強力に抑制したり、あるいはアポトーシス(細胞の死)が起こる
  5. 脱毛が進行する

AGA治療薬がAGAに作用する仕組みについては、下記の記事にて解説しています。

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